第9回金沢学会
金沢学会2018 >第3セッション
セッション3
■第3セッション「夜を熟成させる」
●コーディネーター (佐々木) 私は2日前から金沢市文化ホールであるシンポジウムの総括、それから昨日は東アジア文化都市のクロージング前の国際シンポジウムの総括をして、かなり真面目に働いてきたので、今日のこの場は少し遊ぶ感じにしたいと思います。 「夜を熟成させる金沢ナイトカルチャーの熟成に向けて」ということで、実はそもそもこのセッションのお題になったことからもご理解いただけるとおり、実は近年、日本でナイトカルチャーを巡るいろいろな動向が起こっています。そこをちょっとファクトとして整理して紹介したいと思います。 実は、最初の発端として起こったのはクラブです。深夜まで営業してお酒を提供したり、そこでダンスをできるような場所としてのクラブがさまざまあるわけです。この営業に対して、規制が起こりました。その背景として、ある暴力沙汰による死亡事件が大阪のクラブで発生しました。そのことによって警察も規制を強めざるを得なかったという背景があります。過剰規制問題に端を発した『踊ってはいけない国、日本』という本も出ました。 そういう中で、今度は別のルートからナイトカルチャーの動きが出てきました。これは新経済連盟といって、楽天の三木谷浩史さんなどが中心になってつくった通称・第二経団連と呼ばれる組織です。ここが2015年に「観光立国2020」という政策提言を出しました。この中にいろいろなアイデアが盛り込まれているのですが、その中のプロジェクト29ということで、ナイトライフ観光の受け皿の整備が提案されています。この中で課題として先ほどのナイトクラブへの過剰規制を受けて、国内のナイトクラブの営業時間が限定されていること、世界各国でグローバルスタンダードとなっているナイトクラブやフェスティバルの欠落があるということです。その具体的な対策として、風営法の改正や有名な音楽フェスの誘致がここでは提案されています。 こうした動きもあって、結果としてクラブに関する規制が変わります。実はクラブに関する規制は法律でいうと風営法なのですが、風営法で規制されているものを改正することによって、何とかクラブが営業できる形の見直しが行われました。これが2016年のことです。 実は世界的にも既にいろいろな動きがあります。その一つの大きなポイントが、「夜の市長」という存在です。これは毎日新聞の今年の記事ですが、オランダのアムステルダムで夜の市長が選出されたということが報道されています。選ばれた方は黒人の方ですけれども、先代のナイトメイヤー(夜の市長)が2〜3年前に来日しています。オランダの政府首脳が来たときに、実はアムステルダムの夜の市長も同行していて、東京などで講演もし、情報提供もあって、夜の時間、ナイトカルチャーのマネジメントが非常に重要ではないかという議論が日本でも起こってきたのです。 実はナイトメイヤーの動きは世界的にも結構進んでいるところがあり、Global Cities After Darkといって、要するに夜の国際会議のようなものが開催されています。これは2017年から始まったようで、今年は先月11月にシドニーで開催されたようです。世界的にもこういう動きが起こってきているということです。今年のケースとしては、世界各国から夜の専門家が200名以上集まったということです。その中で、夜のナイトカルチャーを推進することに伴って、創造産業をどういうふうに振興していくのか、文化をどういうふうに活性化させていくのか、交通や移動の問題、公衆衛生や安全、または夜の居場所づくり、プレースメーキングのようなもの、または関連法規と規制緩和といった問題が、この国際会議の中で議論されたと報告されています。 こういう動きがある中で、実は徐々に日本の各自治体も、夜のナイトタイムエコノミーまたはナイトカルチャーといわれるものに取り組み始めています。その幾つかをご紹介したいのですが、まずは英国の事例から紹介します。 また、個別の都市では、ロンドン市が政策として24 Hour Londonを打ち出しています。これは一つのビジョンなのですが、昼間だけでなく夜をもっと活性化させていくための施策です。これは現実に経済的な意味もあるということがウェブサイトで紹介されています。実際、夜の経済は、2016年現在で236億ポンドの経済価値があります。これが振興していけば2029年には283億ポンドまでに成長するというふうに、一種の成長セクターであると位置付けられているのです。そして、既に多くの雇用をしているけれども、さらに雇用効果もあるということがうたわれているわけです。こうした背景で、ロンドンは24 Hour Londonを進めています。現に、象徴的な動きとして2016年から、ロンドンの地下鉄は24時間営業をしています。これが非常に重要なポイントかもしれません。 ニューヨークは、先ほど紹介した夜の市長を設けています。夜の市長だけだとあえてここで取り上げなかったのですが、「Time Out Tokyo」の記事で、市役所内にナイトライフ課というものが新設されたというのが非常に面白いと思って注目しました。この人たちの勤務時間は一体何時から何時までなのだろうと微妙に気になったのですが、ナイトライフ課と夜の市長が任命されたということで、ニューヨークも非常にナイトカルチャー、ナイトタイムエコノミーに力を入れています。 シドニーもナイトカルチャー、ナイトタイムエコノミーを振興しようとしているのですが、一つ原則を設けていて、変化の原則というらしいのです。要するに、既存の娯楽施設の近くに新しい住宅が整備された場合、会場間の騒音という問題が当然出てくるのですが、それは必要最低限やりましょうということです。新しい娯楽施設を整備する場合には、既存の住宅が全く影響を受けないようにするのです。要するに、既存の住宅が普通あると、単に音を出す施設、単なる迷惑施設という一方的な位置付けになってしまうのですが、それはお互いイーブンの関係で、どちらが後に変化したかということを見極めてちゃんと整備していこうというふうに、割と迷惑施設になりがちな夜の施設をイーブンに位置付けた原則と見られています。 ちょっと変わった動きを幾つか紹介したいと思います。昨日、東アジア文化都市のクロージングで、欧州文化首都を経験したスペイン・バスク地方のサン・セバスチャンの方にゲストでお越しいただきました。その他、例えばビルバオなどもそうですが、バスク地方で非常に有名な一種の食文化があって、それがいわゆるはしご酒です。日本ではしご酒というと何となくネガティブで、本当に酒好きの人がやる、どうしようもない習慣というイメージがなきにしもあらずですが、実はバスクにおけるはしご酒は、現地語でポテオとかチキテオというのですが、非常に普通の行動としてみんなやっているのです。バルでたくさんのグラスワインを頼んで、ピンチョスと呼ばれる串刺しのような、小さなプレートのつまみを食べて、長居するのではなくて、さっと行ってまた次のバルで同じようなことをします。これを3〜4軒続けるという飲食のスタイルになります。 それから日本ですが、東京都も夜に非常に注目していて、東京ナイトライフということで夜の東京をPRしようとしています。ウェブサイトも英語対応になっていて、海外の人が夜の東京を楽しむときの検索の手伝いをしています。 それに伴って、六本木アートナイトというイベントをやっています。元々、毎年秋にやっていたのですが、今は5月に行われています。土曜の晩から日曜にかけて行われます。たまたま六本木は、比較的大きな美術館が三つあって、森ビル美術館、国立新美術館、サントリー美術館があるのですが、この三つの施設を中心にまち歩きを一晩中楽しめるようなアートイベントを行っています。 渋谷区では、先ほどの夜の市長に近いような制度として、ナイトアンバサダーという制度を導入しています。これは行政的な役割があるというよりは、一つ広告塔のような、イメージ発信のような位置付けのようです。アーティストのZeebraさんやALISA UENOさんといった方がナイトアンバサダーに任命されています。 やはり渋谷は元々夜遊びの街というイメージもあって注目されています。これは日本経済新聞の今年7月の記事です。「動き出す夜遊び経済」という感じで記事にもなったのですが、ご案内のとおり、渋谷については11月のハロウィーンのときにニュースをご覧になった方もいると思いますが、車をひっくり返したり、悪ノリしたりする若者が出てきて、ちょっと安全性に問題があるのではないかという課題が提示されています。 今年は金沢で東アジア文化都市が行われ、来年は東京の豊島区ですけれども、豊島区もナイトカルチャーに非常に力を入れようとしています。「アフター・ザ・シアター」と豊島区では言っていて、私もこの委員なのですが、豊島区は現在、東京都の芸術劇場が駅前にあるほか、民間の劇場も幾つかあります。さらに、豊島区庁舎が移転したのですが、その跡地の再開発が進んでおり、それがまさに東アジア文化都市がある来年のクロージングの頃にオープンします。その再開発に伴って、八つの劇場が同時にできるという結構画期的な状態になるのです。完全に劇場タウンのような形になります。単に劇場を見て「じゃあ帰ります」という感じになるのではなく、劇場を見た後、余韻に浸りながら飲んだり遊んだり、しかも安全にということを目指していかなければならないということで、「アフター・ザ・シアター」という形でナイトカルチャー・ナイトタイムエコノミー振興の取り組みを始めています。 同じく北海道では、函館市もカルチャーナイトということで同様の取り組みを、9月下旬の金曜日に行ったようです。 あと、政令市では千葉市がナイトタイムエコノミーの実証実験ということで、「宴タメ千葉2018」を今年8月に行ったようです。前売券3300円、当日券3500円を買うと、いろいろなプログラムを楽しむことができるという仕掛けをつくったらしいのですが、これはニュースにもなっていまして、販売不振で、チケットが261枚しか売れなかったそうです。これは惨敗ですよね。逆に、金沢市の方で今後いろんなイベントをしていくのであれば、失敗事例としてちゃんと研究した方がいいかもしれない事例になります。 こういう実証実験は結構いろいろなところでしています。横浜市の桜木町に野毛という飲食店が集積したエリアがあります。ここで「野毛 横浜おもてなしナイト」という、観光客を対象にしたナイトタイムエコノミーの実証実験も行われています。これは特に失敗という報告はないようです。 割と気合が入っているのが大阪です。これは大阪府ですが、ナイトカルチャーのコンテンツづくりのために助成金を出す事業をしています。大阪府ナイトカルチャー発掘・創出事業という名目で募集して、サイトを見ると、エイベックスさんがやっていたり、近鉄百貨店さんがやっていたり、夜のイベントをこういう形で創出することを試みています。 その他、「光の饗宴」です。割とヨーロッパの街では夜に光で演出することはすごくよくあるのですが、日本ではあまりありません。イベントとしてはあります。イルミネーションの通りを作るようなことはありますが、割と大々的に無料でやるのは、大阪が一番進んでいるかもしれません。 さらに、大阪観光局というのは大阪府と大阪市で共同でつくっているのですが、ここは夜を楽しめる店の認証をしています。安全に楽しめるというお墨付きを与える制度も始めています。 奈良市は東アジア文化都市を一昨年に体験した都市ですが、ここも奈良の夜を楽しもうということで、ちょっと地味ですが、「ならまちナイトカルチャー」という取り組みをしています。 国内はこれが最後ですが、沖縄で夜の市長を選んだという記事もありましたので、ご紹介しておきます。 国内のいろいろな都市や海外の都市のご紹介をしたのですが、実は事前に浅田さんから、「あまり大きな政令指定都市や海外の大都市の報告をされても、金沢はもうちょっと規模感があるから、そういった規模感に合うような事例を紹介してくれないか」というリクエストを頂きました。たまたま先週、フランスのニースに行く機会があったので、ニースはどうなのだろうかというところを見てきました。別に夜の経済を取材に行ったわけではないので、見た印象ベースになりますが、一つには今ご覧いただいているとおり、界隈性のデザインのようなものはちょっとうまいなと思ったのです。 こういう狭い路地の使い方が非常にうまいなと思います。実際、自分もうろうろして思ったのですが、観光客、そして住民の方もそうですけれども、夜のまちに誘い出すために必要なものはいろいろあると思うのですが、非常に重要なのが、自分以外の人の存在だと思うのです。やはり寂しい所に誰も行きたくないので、ちょっと逆説的な、鶏が先か卵が先かという話にもなるのですが、やはりみんながいる所に人は行きたがります。特に夜です。界隈性やにぎわい性のデザインをどういうふうにやっていくのか。これはハード・ソフト両面あると思いますが、非常に重要だと思いました。 それと、ニースでちょっと面白いと思ったのが、トラムが走っているのですが、終電がとても遅いのです。夜中にずっと走っているなと思って調べてみたら、夜中の1時35分が終電でした。相当夜遊びしても、安く公共交通で帰ることができます。やはり足は非常に重要だと思いました。別にトラムではなくてバスでもいいのでしょうが、公共交通が夜走っているのは何となく安心感も与えます。やはりこういうものも非常に考えていかなければならないと思います。 たまたまこの画像にも映っているのですが、先ほど紹介した界隈性のある旧市街にほど近い所の広場で、割と人がたまりやすい場所になっているのですが、非常に特徴的なオブジェがあり、これが夜、とてもきれいに光るのです。こういったものも文化都市としては考えてもいいのかなと思います。非常にフォトジェニックな、要するにみんながインスタグラムに上げたくなるようなアートです。しかも夜に映えます。調べたら、これはスペイン人のジャウメ・プレンサという有名作家のアート作品でした。これは昼間に見ると全然つまらないのですが、夜になると非常にきれいに見えます。 ちょっと面白いのは、これはアメリカのデータですが、増えるのは主に置き引きやすりなどの軽犯罪なのです。重犯罪はむしろ微減する傾向にあるようです。やはり人が多いので、そうそうおかしなことはできないということもあるようです。 ごみは絶対に増えます。税金なりで負担する、または何らかの観光税的なものを新設する等の対処は必要かもしれません。 特にインバウンドを考えた場合、どうも日本の夜はつまらないというのが外国人観光者のイメージらしいのです。これはOECDのデータを基に観光庁が作った資料ですが、ご覧いただいて分かるとおり、その国への外国人観光客の消費支出の割合のうち、娯楽サービスの部分は日本が断トツに低いのです。日本に来た外国人の方に聞くと、「夜、食事して居酒屋に行った後、やることがない」という話をよく聞きます。そこのプラスの部分で、何か文化的な体験などがあると、もっともっとお金は落ちるのではないかというところはあると思います。あとはやはり夜間の足です。これは大都市の鉄道路線だけの事例ですが、実はほとんどの大都市が少なくとも週末は24時間化を実現しています。もちろん鉄道路線を24時間化するためには、メンテナンスのためのバックアップが必要なので、日本の場合は簡単にはいかないのですが、そうであればバスで代替するなどいろいろな方法もあると思います。金沢の場合、市内に鉄道が元々ありませんから、バスをどうするのかというのが目先のソリューションになってくると思います。こういったことも考えながら、ナイトカルチャーの振興を考えていくべきだと思います。イントロとして概論的なお話をしました。 (佐々木) ちょうどバブルのときに「24時間都市」という言葉がはやったのですが、あのときの24時間は何だったと思いますか。「24時間戦えますか」という、つまりがんがんエコノミックアニマルをやりますかという話だったのです。でも、今は全く違う意味で「24時間都市」です。ニューヨークの地下鉄が24時間動いているのは、金融マーケットが動いているからです。それも今は全く違ってきている。それは21世紀という時代の一つの特徴かもしれません。 (松岡) 私は建築家なので、ものを作る仕事をしているのですが、立場が三つあります。まずデザインをしているのは、私の設計事務所です。それから、二つ目はNPO法人の理事長です。三つ目は、2年前に父が創業した不動産会社を継いで、その会社の社長もしています。その三つでどんなことをやっているかということを少しお話しして、何かのご参考になればとても幸いです。 夜を熟成させるということを私なりに読み替えて、これからものが売れない時代とよくいわれていて、事の時代だといわれるわけです。やはり熟成させるというのは、ひもづける意味、背景といったものの数が増えたり、奥行きが広がったりすることがとても大事なのではないかと思っています。それから、熟成させるというのは、単なる浅い活動ではなくて、意味が深くなれば多様な人が集まってくるわけです。従って、そのプロジェクトの意味や行き先などを少し大きな視点で捉えないと、価値の共有がしにくいという思いもあります。 私が最近プロジェクトを見直したときに、こういうダイヤグラムを使います。左から背景、着想、真ん中が課題、プロセス、最終成果物と、左から右に事が進んでいると思ってください。背景はプロジェクトを取り巻く歴史や文化、着想はなぜこのプロジェクトが始まったのか、例えば企業の何周年とか、助成金が下りたとかです。課題は、そもそも何のためにやるのか。そしてプロセスは、誰がどれぐらいの時間で、どんなチームでやるのか。最終成果物は、私の場合は建築だけでなく、土木やプロダクトなどもやっているので、それぞれいろいろあります。 一方、私たちが何かをするときに、アクションとして四つあるような気がしています。映画に置き換えると非常に分かりやすいのですが、一つ目はプロデューサーです。そして、コーディネート、調和させる人です。そしてディレクター、映画でいう監督です。そしてデザイン、これは狭い意味でのデザインです。例えば映画でいうとヘアデザインやコスチュームデザインなどです。本当は私はデザイナー、建築家なので、これを全部やってデザインの仕事と呼んでいるのですが、こういうふうに分解してみました。 地方創生やまちづくりの交付金が下りて、取りあえず建物を建てることが最近多い例です。右側に小さくピンク色を書いていますが、道の駅ではないですが、「観光拠点みたいなものを造ってね」というものが多くて、課題はとても大きくて、高齢化や人口減少などがあるのだけど、その背景やプロセスが結構欠落しています。 私が実行したプロジェクトを一つお見せしたいと思います。これは福岡のプロジェクトで、水上公園とSHIP'S GARDENというものです。二つの川に挟まれた三角の敷地です。このプロジェクトの背景としては、福岡市で最も古い街区公園は大正8年に完成しています。着想から始まっていて、福岡市が地下に埋まっている施設の更新でこの公園をやり直さなければならないのです。地上をガラガラポンして再整備します。でも、お金がないので官民協働で、プロセスにいきなり飛んでいます。最終成果物は公園と休養施設のようなものを造ることです。これは事業コンペだったのです。私は常々、福岡の水辺空間が貧困であると思っていました。 福岡のまちをちょっとご紹介します。真ん中に川があります。那珂川といって、その東側が博多で、江戸時代は商人のまちでした。西側は武士のまち、福岡です。この水上公園という敷地は、那珂川に面しています。那珂川というのは江戸時代、この二つのエリアを隔てていて、人が自由に行き来できない川だったそうです。特に商人は福岡側に来られなくて、年に1回、お祭りのときだけ来られました。 中洲という繁華街をご存じでしょうか。写真の上の方にたくさん屋根が並んでいますが、これがかつての中洲の繁華街です。この三角形を海側(北側)に向かって見ている写真です。右側に那珂川があります。福岡はもちろん、古来、韓国や中国の大陸文化が入ってきて、日本と大陸文化の交流の玄関口だった所ですが、福岡は南側に発展して北側に背を向けてきたので、非常に海側のウオーターフロントが貧困です。 上に行くと、地面から9mくらい上がるだけで、これは中洲の方を見ているのですが、非常に開放感があります。 これが玄界灘の方を向いているのですが、三角形の突端は「タイタニックポーズの場所」と私たちは呼んでいて、もし皆さんここに行かれることがあったら、ご夫婦で奥さまを抱いて持ち上げてみてください。 ここからはNPOの話をさせてください。私たちのNPOは、50人のメンバーで活動しています。いろいろな立場の方がいます。偉い方もいれば学生もいますが、みんながフラットな構造で活動しています。バックグラウンドもさまざまで、建築だけではなくてインテリアや建築写真家、グラフィックデザイナーウェブの方など、いろいろな方がいます。なぜ私が学生に参加してもらってこのプロジェクトを始めたかというと、2007年に福岡のまちをとことこと歩いていましたときに、大分出身の日本を代表する建築家、磯崎新さんが若いときにデザインされたあるオフィスビルがありました。そこに足場が掛かっていて、「あら、何か改修でもしているのかしら」と思ったら、実は壊されていたのです。磯崎さんはまだご存命ですし、本当に日本をリードされてきた建築家の作品が、地元の建築家である私が知らないうちに壊されていることに非常にショックを受けました。 今やっているのは、建築のツアーです。これも一般向けなので、非常に分かりやすく、老若男女に伝わるようなお話をしています。また、デザイナーを呼んでレクチャー、ワークショップをしたり、子どものデザイン教育もしています。また、情報アーカイブやいろいろなツールの開発もしています。円卓に5冊ずつほど持ってきたのですが、マップを作ったり、スマートフォンで見ながら建築を見て回れるようなこともしています。 いろいろな建築をご紹介していますが、福岡は第二次世界大戦前の建築がほとんど残っていません。ほとんど焼けています。また、金沢と違って、福岡はどんどん壊すのが好きなので、右上にある九州大学のキャンパスも多分、この工学部本館は残ると思いますが、あとは軒並み壊されてしまいました。先ほどスマートイーストの話がありましたが、スマートイーストをやる一方で、かわいらしい大正時代の建築が残っていれば、いろいろな時間の積み重ねができたのではないかと思って非常に残念です。 これは不動産会社の社長として今年取り組んだプロジェクトで、「大名week」というものです。「大名」というのは、福岡のあるまちの一角の住所です。この地図でいうと左側に丸い水があって、これが大濠公園といいます。その右側にある大きなグリーンが福岡城跡です。その上に青いラインがあると思うのですが、これが昔の堀で、本当は那珂川まで幾つかの堀がありましたが、ほとんど埋め立てられてしまいました。このちょうど地図の真ん中にあるのが大名です。那珂川の西側ですから、武家側、黒田藩側のエリアです。そこで「大名week」というイベントを、「大名の400年を知る13日間」と題して行いました。 これが大名のエリアなのですけど、道が丁字路になっているのが分かるでしょうか。あみだくじのようになっていると思います。福岡はほとんど戦争で焼けたのですが、このエリアは空襲を免れたので、昔の防御を意味する道の成り立ちがまだそのまま残っているのです。従って、天神という非常に商業が集約しているまちの後ろに界隈性が残っています。 昼の部、夜の部とあり、昼に見られる場所と、夜に見られる場所を設けました。夜はワインバーや居酒屋やバーなどでも見られるようにしました。 (佐々木) もう少し夜に焦点を当てて、太下さん、金沢の夜の熟成についてこういう方向があるとか、こんなことをやってみたらという提案があれば。松岡さんも同じように、福岡の話はある程度分かったので、福岡の夜と金沢の夜との関係で、金沢はもう少しこういう夜の熟成の仕方があるのではないかということで、それぞれあと2〜3分ほどお願いします。 (太下) 最初のまちづくりのセッションで竹村先生からご提案のあった「人間優先の道空間」は、夜を考える上でも非常に重要だと思っています。先ほどご紹介したとおり、ニースのような所では、本当に車を気にせず歩行者、観光客も住民も夜ずっと家族連れで歩き回れるような空間があります。これはバスクのバルもそうです。歩行者だけの空間の中ではしご酒をしています。そういうエリアが非常に多いです。バルセロナのスーパーブロックにもつながるような話かと思いますが、歩行者が安全に楽しく夜を歩けるような界隈性のある道空間のデザイン、しかも金沢らしい空間づくりが非常に大きなポイントになると思いました。 (佐々木) 実は金沢で24時間営業しているものがあるのです。市民芸術村です。これは芸術活動に焦点を当てているけれども、世界で最も進んだ運営形態で、国内では一つもまねができていません。だけど、市民はあそこを楽しめるけど、そこまで行く公共交通が夜にないから、もうちょっとああいうものを、それこそ先ほどクラブと言われたので、市民芸術村をいろいろな人が楽しめるクラブにしても面白いですね。そもそも24時間型になっているのだから。 (松岡) ナイトライフを違う意味に転化しないといけないのではないかと思います。享楽的であったり、エネルギーを浪費しているとか、電気垂れ流しにしているというふうになると、何か違うのではないかと思います。最近よく言われているSDGsをちょっと持ってきました。 (佐々木) 11番の「住み続けられるまちづくりを」に私は関心があるのです。これが都市の話で唯一具体的に出ているのです。都市と人間居住地域をレジリエントで、そしてインクルーシブ、持続可能にするということです。これはナイトライフでやったらどういうことになるだろう。 (松岡) ごめんなさい。私はあえてここを赤で囲まなかったのです。というのは、私たちは都市の専門家なので、都市のことを語りたくなってしまうのですが、目線をシフトして多くの人の支持を得るには、都市はあえて語らないようにしようと思ったのです。 (佐々木) では、宿題にしておきましょう。明日、全体討論でまたお話しいただいた方がいいと思います。
お礼の言葉/米沢 寛(金沢創造都市会議開催委員会実行副委員長/一般社団法人金沢経済同友会副代表幹事) 1日目の13時から4時間半にわたり、大変長時間ですが、ご参加いただいた皆さんには心から感謝申し上げます。またセッションに参加いただきました皆さま方には、大変興味深く、長い時間もあっという間に過ぎるような良い時間をつくっていただいたことに心から感謝申し上げたいと思います。明日10時から山野金沢市長にもお入りいただきまして、今日いろいろ出ました課題や問題を解決に導けるかどうか分かりませんが、話し合ってみたいと思っています。
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