第9回金沢創造都市会議
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●第1部プレゼンテーション プレゼンテーター (宮田) 私は約30年ベンチャー企業をやってきていまして、30年たつとベンチャーなのか、その辺がよく分からなくなるのですが、先ほど代表幹事からまちづくりというのは根気が要るものだとお話がありました。ベンチャー企業はスピード命のようにいわれていますが、僕もこの会議に十数年関わらせていたただいて、根気というものを金沢で教えてもらったところがあります。非常に両極端なことをやらせていただき、すごく成長したような気がしないでもありません。 今回は、非常にテーマが壮大だと思っています。AIとまちづくりという、僕もあまりお話ししたことがないような内容で、しかも、日本を代表する企業と、日本をこれから背負って立つスタートアップの組み合わせのお話で、非常に楽しみにしています。 (志賀) 皆さん、こんにちは。日産自動車の志賀でございます。 ちょうどカール・ベンツとダイムラーが車をつくったのが1886年ですから、馬からガソリンエンジンになって、馬車がワゴン車になってから、ちょうど131年の歴史があります。 車のモビリティの新しい動きを表現する言葉として、よく使われる言葉が「CASE」です。です。ダイムラーのCEOが最初に使って、結構皆さんが使うようになったのですが、最初のCはConnected(コネクテッド)のCです。今、皆さんが使われている車は、実はこのインターネットの時代でも、ほとんどつながっていません。皆さんが見られている地図も、買ったときの古い地図で走っているわけですが、これから恐らく間違いなくインターネットと同時接続しながら、新しい情報がどんどん車に入ってくる、そういう時代になるでしょう。 このCASEがどの程度進むか。第4次産業革命の中で、IoT、ビッグデータ、AIというものが、今から大きな変化を呼び起こします。 過去の第1次から第3次まで産業革命を見ると、第1次では1908年にT型フォードがデトロイトで量産されました。実は1908年に生まれた自動車会社の大量生産ラインというものも、あまり変わっていないのです。それが第3次産業革命でファクトリーオートメーションになります。ちょうど私が日産に入る10年ぐらい前に起こって、日産の座間工場でもロボットが使われるようになり、ロボットにモモエちゃんやジュンコちゃんという名前が付いていました。 具体的には、いろいろな言い方をされています。例えば「限界費用ゼロ社会」。ファクトリーオートメーションだと、ロボット一つ買うのに大変な費用がかかるわけです。従って、資本のある大企業はどんどん生産性を上げて、資本の少ないところは手作業になるので生産性格差が起こり、賃金格差が起こりました。産業革命の負の部分です。しかしIoT、ビッグデータ、AIというのはデジタルの世界ですから、皆さん誰でも限界費用ゼロで使える、共有社会が生まれます。 ダボス会議を主催しているシュワブさんという方が、昨年の今ごろ出された『第四次産業革命』という本では、いろいろなことが書かれています。例えば2025年までに起きる変化として、82%の確率で、体内埋め込み式の携帯電話が市販化されるだろうと書いています。また、人口5万人の都市で信号機が廃止される。なぜ信号機がなくなるかというと、車車間通信、あるいは車と道路が通信しているので、信号機が要らなくなるということです。このような大きな変化が起こります。 内閣府が使った言葉で、「Society5.0」というコンセプトがあります。第4次産業革命を最も上手に言い表しているのが、これではないかという気が私はしています。 実はここから、第4次産業革命の先に一体何が起こるかを、大胆予想してみました。これは私個人の予想で、日産自動車を代表した予想ではないので、気を付けていただきたいと思います。 まず、この仕事をされている方がいると申し訳ありませんが、2050年にはガソリンスタンドは一軒もありません。次は免許証がなくなります。2050年には、普通の道路で自分が運転するのは危険行為とされて、禁止となります。自動運転車しか走れません。それはそうです。全部センシングされていますから、マニュアルで走られてしまうと、逆に事故が起こるので禁止されます。 まず、なぜガソリンスタンドがなくなるのか。一つは、日産自動車で、10月に2代目のリーフを発売しました。航続距離が400kmです。2022年までに航続距離600kmの電気自動車を発売すると既に発表しています。ですから、ほぼガソリン車並みになります。 そうはいってもコストの問題があります。しかしこれも、圧倒的にバッテリーのコストが下がってきて、エネルギー密度がどんどん上がっています。今、トヨタが巻き返しを狙って開発されている全固体型、このような新しいものが出てきて、ほとんどガソリン車を使わなくても電気自動車の方がコスト的にも性能的にも高まってくる時代が来ます。 今度は自動運転です。現在、交通事故でどれぐらいの方が世界中で亡くなっているかというと、125万人も亡くなっています。日本もやっと4000人を切れたのですが、そうはいっても年間3904人の方が交通事故で亡くなっています。これは大変な状態で、やはり自動車というのは人々の生活を豊かにし、経済を発展させてきたのですが、残念ながら環境問題と安全問題という負の部分を解決しないと、自動車産業自体が持続的な産業になりません。ここは非常に重要なところになります。 ただ、事故が何で起こっているかというと、93%が運転手のうっかり事故なのです。ですから、車を幾ら安全につくっても、やはり人間が運転している限り、車で事故は起こってしまいます。そうなると、人間に運転させなければいい、そちらの方が安全だという発想に、自動車会社はどんどんなってきたわけです。 なぜ安全かということですが、車は目で見て、頭で判断して、手と足で運転しているわけです。それを例えばカメラやレーザー、LiDARなどに置き換えていく、あるいは脳みその代わりにCPUやGPUなどコンピュータに置き換えていく、そして手と足の代わりにモーターアクチュエーターに置き換えていく。 こういうものにすると、実は人間が判断するよりも、100倍速いのです。 ***ビデオ上映 開始*** 2、3日前に、日産はDeNAと組んで、横浜のみなとみらいで無人の自動運転車を一般の方に開放すると発表しました。4つのレーザーなど、いろいろなスキャンや、8個のカメラが車中に付いていて、周りを見ながら走っていくという状態です。 ***ビデオ 上映終了*** 自動運転を安全にするために、幾つかやり方があります。車自身にレーザーやLiDARなどを付けてセンシングすることと併せて、地図側も3次元の地図を作っていきます。それによって、人間ですと、この先はどうなっているのだろうと目で見ながら考えているわけですが、車は3D地図が頭の中に入っているので、ずっと先まで道がどうなっているか、いつ信号があるかが分かるわけです。こういう地図を、私が会長を務めている産業革新機構が投資して、三菱電機や自動車メーカー10社と一緒になって作っています。 今の日産の開発のスピードですが、去年販売したセレナの新型セダンに搭載された「プロパイロット」というものは、単一車線をセンシングしています。これは単眼カメラといって、カメラが一つで距離を測りながら走ります。この単眼カメラの技術は、イスラエルのベンチャー企業、Mobileye社が開発した技術で、単眼でどうして距離が分かるのか、いまだに私は不思議なのですが、実は最近のテストではステレオの自動ブレーキよりも、こちらの方が性能が高いといわれています。 これが私の二つ目の大胆予想です。ちょうど、セレナのプロパイロットという単一車線をずっと走ってくれる、前が止まったら自分も止まるし、前が動き出したら自分も動き出すという自動運転技術は、レベル2と呼ばれます。ステアリング、アクセル、ブレーキの三つのもののうち、一つだけ自動だと、自動ブレーキで、レベル1です。複数が自動で動くものをレベル2と呼んでいます。 このような時代になると、ロボットタクシーなどで、移動時間が有効に使えるようになる。アメリカなどではこういうものを希望する人が多いです。それから高齢者の方々、免許返上された方々、あるいは体の不自由な方々、移動困難者や買い物困難者といわれる方に、移動の自由を提供できることになります。 こういうことになってくると、いろいろなものが変わってきます。例えば、ここにいらっしゃる方で関わっている方がおられたら、そろそろ考え出された方がいいと思いますが、部品でいうと、基本的に内燃機関系は、2040年以降、ほとんど受注がなくなって、電子部品や半導体、センサーなどに業態を変えていかなくてはいけなくなります。 材料もどんどん変わっていきます。例えば道路なども、電気自動車の場合、普通のガソリン車よりも6倍ぐらい多く銅線を使います。ですから銅ではなくて、銅からアルミやマグネシウム、ナノチューブに替えるなど、こういうところでもいろいろな工夫が起こってきます。 これが最近話題になっている、いわゆるCloud-to-Carというものです。クラウドと会話しながら車が走ってくるのです。基本的に今の技術では、光の速度よりも早く通信することはできません。つまり、地図を見ながら遠くで起こっていることを頭で考えて走る分にはクラウドで大丈夫なのですが、残念ながら目の前に突然何かが現れたときは、いったんクラウドまで飛んでまた戻ってきて判断しているのでは間に合わないわけです。従って、エッジ側、車の中に人工知能を置いていく形になります。これがエッジコンピューティングといわれるものです。これらのところにコンピュータが入りますから、メモリをたくさん使うことになります。東芝メモリの争奪戦が数カ月前話題になっていましたが、何であんなにメモリが世界中の企業から注目されるかというと、車にこういうものがどんどん積まれていく時代になっていくからです。 材料もどんどん変わります。どんどん軽量化されていくので、鉄からマルチマテリアルという、いろいろなものの、合金ではない組み合わせのマテリアルから、CFRPのようなものに変わっていくということで、これも大きく変化していきます。 今度はビジネスがどう変わるかで、これがまた衝撃的です。日産の販売会社の方もおられて少し話しにくいのですが、従来のようにメーカーが販売会社に卸して車を売るという時代が、いずれなくなると予想されています。完全になくなるというと、今のうちに商売を辞めようということになってしまうのですが、しばらくは持ちます。 今日の夕方の議論のまちづくりにもなると思いますが、このように完全自動運転をベースにすると、道路も変わってきます。基本的には無人ですが、乗り降りする停車スペースができて道路も変わってくるし、あるいは基本的に電気自動車なので、その下の道は接触充電でどんどん車が走る、つまり充電をしなくても走って行けるようになっているということです。 ここからは私の提案なのですが、こういう時代が来たときに、いずれにしても来るのですから、おびえていても仕方がない。われわれとしては、それにどう取り組むべきかということです。金沢の皆さん方に、ぜひ、こういうことで考えていただければどうかということで、ご提言させていただきます。 そもそも日本が世界を席巻していた1970〜1980年代には、基本的に真面目にものづくりをやって、人づくりをやって、おもてなしをして、これで勝てていたわけです。ところが、残念ながら、毎日の新聞が表しているように、日本企業はどんどん海外の企業に買収されて、日本ではイノベーションがなかなか出てこなくなってきました。 なぜ多様性なのか。要は、モノカルチャーと多様のちょうど真ん中、つまり高度成長の日本の時代というのは、同質の日本人あるいは男性だけが日々改善を繰り広げていたので、失敗もなければ、ある程度いい物をつくって世界を席巻したのです。 実は、まちづくりで私が個人的に応援している宮城県の女川町は、震災でまちが壊滅的な被害を受けました。そこで今、地元の方と、いわゆるよそ者、若者、ばか者が一緒になって、非常に面白いまちづくりをやっています。ですから、これから明日の議論にもなると思うのですが、ぜひ、金沢の尾張町のまちづくりなども、地元の人だけではなく、多様な人たち、外から来た人たちの知恵も含めて考えられると面白いのではないかと思います。 そういう多様なことをやっている企業はないかと探して、産業革新機構でお付き合いのある明和工業を取り上げてみました。この会社は金沢のベンチャー企業で、有機ゴミからバイオマス炭化装置を造って、ベトナムやモンゴル、ケニアなどとお仕事をしているという非常に面白い企業です。ぜひ応援したいと思っています。 二つ目は、明らかにオープンイノベーションです。自前主義(クローズドイノベーション)の時代は確実に終わっています。オープンイノベーションは間違いなく産官学です。 日本がなぜこんなに停滞したかというと、産業と大学との連携があまりにも悪いからです。日本の企業は、大体年間13兆円の研究開発費を使っていますが、日本の大学に使っているお金はなんと700〜800億円しかありません。海外と比べても全然違います。産業と学問、研究機関が連携しないで、イノベーションが起こるわけがないのです。 ちょっと調べてみたのですが、実は金沢工大にオープンイノベーションの産学連携プラットフォームがあるのを発見しました。こういう取り組みが非常に大事だということで、これからもまちづくりを産官学連携でやっていただければと思います。 最後は、アントレプレナーシップです。サラリーマン根性をやめて、自分でやっていく。起業家精神です。 日本が何で弱くなったかを典型的に表しているのが、「大学を卒業したらできる限り立派な大きな会社に入って、60歳定年までつつがなく過ごす」という考え方です。こういう人生を日本国民みんながやっているので、イノベーションが起こらないのです。今日はこちら側に結構イノベーションを起こす人たちが並んでいますが、皆さん頑張ってほしいです。 これは、ある人が私にくれたスライドで、シリコンバレーの序列なのですが、結構面白いと思いました。「チャレンジして成功した人」はクール、次にクールなのが「チャレンジして良い失敗をした人」です。その次が「チャレンジして愚かな失敗をした人」、最後に「失敗を恐れてチャレンジをしない人」はくずだと。一番大事だと思っているのは、失敗を尊重する文化という部分だろうと。これが日本はものすごく弱いと思っています。日本もこういう発想に転換していかないといけません。とにかく日本全体がリスクを取ってチャレンジしない国になってしまっているので、少なくとも金沢は失敗を恐れずにチャレンジする地域であってほしいと思います。 次は販売会社のAIです。お店の上に3、4個のカメラを付けて、店員の動きや商品の並べ方、お客さまの動きをずっと画像で撮ってビッグデータ化して、それをAIで分析し、商品をこう並べたら、あるいは店員がこう動いたら売り上げが増えるということをコンサルしています。これは日本で有名なABEJAという会社です。 日本の企業と弱みということで、多様性を含んで、オープンイノベーションでアントレプレナーシップを高めることによって、元気な金沢にしていただければということで、私の講演を終わらせていただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました(拍手)。 (宮田) どうもありがとうございました。素晴らしいプレゼンテーションでした。聞き入ってしまいました。今すぐああいう未来が、明日来てくれないかという感じがしました。 (志賀) 自動運転というと、何となくお酒を飲んで運転できたり、無人で運転できたりでいいなという感じなのですが、必然的に交通事故を減らしていくというのと、移動困難者、特に高齢になって免許返上してなかなか移動ができない方々を助けていくということで、「日本再興戦略」「未来投資会議」という総理が直接議長をやっている会議の中でも、この自動運転を国の政策として積極的にやっていこうと決められています。実は、われわれメーカーの方があおられるぐらい、この分野において国は進んでいます。 (半田) ありがとうございます。そうすると、ものすごく高級な車でなくても、しいていえばゴルフカートのような電気自動車的なもので、AI的に自走できれば、あまりコストをかけずに実現できる可能性もあるということですね。 (志賀) あります。これも実証実験でやっています。例えば工場の中で、下に線を引いてその上を伝って走っているAGVがあります。あれでA地点、B地点をつなごうという実証実験もされています。現実的な解を一つずつ広げていくのがいいかと思います。 (半田) どうもありがとうございました。 (宮田) 他に質問したい方も結構いらっしゃると思いますが、何かある方は挙手をしていただけると。フロアの方でもいいです。せっかくの機会なので。どうぞ。 (Q1) とても面白かったです。 (志賀) ありがとうございます。 (Q1) 自動車会社にとっても危機ですよね。それで、システムを最初に開発したところは全部取ってしまいますよね。そうなると、いきなり国ごとの単位でシステムが変わってくるのか、あるいはEUあたりだとEU基準ができていくのか。そのあたりの見通しはどうなのでしょうか。 (志賀) おっしゃるとおり、いわゆる標準化競争では、いつも日本は負けていたのです。技術的には日本が開発するのだけれども、グローバルスタンダードになると、ヨーロッパ、アメリカのスタンダードに負けてきたという感じです。それで日本はガラパゴスになって、結果的に世界市場を取れずに負けていくというのが、いつものパターンなわけです。 (Q2) 自動運転の話ばかりで恐縮ですが、もし本当にきちんと自動運転化されれば、道路の車線はそうたくさん要らないように思います。そういうことは道路の方で、例えば国土交通省など、つくる方の人たちも入って、何かいろいろなことを研究されておられるのでしょうか。 (志賀) はい、やっています。特に高速道路では、最初から全部つながるわけにいかないので、例えば大型トラックの隊列走行というものがあります。大型トラックの運転手も人手不足で大変なので、先頭のトラックだけ運転手がいて、後ろの運転手は寝ていていいというもので、その隊列走行を認めるという検討を、国交省とも一緒になってやっています。これは、人手不足対策と、とにかく安全対策と、それから渋滞予防です。これは渋滞が起こらないので非常にいいことです。そういうことを一緒になってやっています。 (宮田) ありがとうございます。まだまだいろいろお話をお聞きしたいと思うのですが、今日は本当に素晴らしいお話を聞かせていただきました。志賀様、どうもありがとうございました。 (志賀) どうもありがとうございました(拍手)。
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