■コーディネータープレゼンテーション |
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●水野一郎
私は分科会で都心の空間というものを、川勝先生と田中先生のお二人をお迎えして展開したいと思っています。都心の空間と同時に、このテーマでいえば都心(みやこごころ)の空間です。どうなるか大変に楽しみにしております。私のプレゼンテーションとして一つだけ申し上げたいと思いますが、私は今学生にいろいろな課題を出しております。課題のテーマと作品について紹介したいと思います。
一つは、地方都市のメインストリートは、いつのまにか銀行や生保やメーカーや消費者の業務ビルでいっぱいでございました。それがあることがその都市が繁盛しているという証しがありましたが、いまや何となく廃れたというか、淋しいというか、特に21世紀を迎える今銀行が都心にある必要があるのかということがございます。ほとんど電子マネー、振り込みで動いております。人が動いているわけでもない、熱気があるわけでもない。そういうところの「都心の銀行を移転させた跡地に何を作るか」という提案を学生に求めているのです。そうしますとほとんどが、生涯学習とかあるいはボランティア活動のセンター、あるいはアート、ミュージック、演劇、そういったどちらかというと文化とか遊びのシーンを展開するようになっているのがほとんどです。そこに人の渦、活力を呼ぼう。それから、そこから何か生まれるものが情報発信をするようにしようということが非常に多いのです。
そしてもう一つは、例えば日銀をどかすという案が一番多いのですが、日銀をどかしますとあの表の通
りと裏に長町という用水がありますが、要するに現代のストリートと伝統のストリートの両方が6メートルのレベル差の中にそろえるわけです。その間を人間はどう通
るか。そういう空間などを学生たちはどんどん提案しております。先程、松岡さんのお話の中で「超部分」というものがありましたが、そういうきらっと光る「超部分」があそこにできそうだと思っております。
それからもう一つの設計課題は「都心居住」というテーマを出しております。これは都心の人口がどこの都市もそうですが、金沢も3分の1くらいに減りまして4つの小学校が一つになってしまいました。そのようなことも含めて、都心の居住が少なくなって、高齢化している現象の中で、やはり都心(みやこごころ)というか、都心を活性化するには都心に住んで欲しいと願っているわけですが、都心の住まい方を少し変えなければいけないのではないかという提案が非常に多いのです。
それは郊外に住むということは、車社会を謳歌するということがございますが、もう一つは隣近所に干渉されないということがあります。要するに、閉鎖的な家を造るということです。それに対して、先程、田中さんの方から上がりがまちの話が出ましたが、金沢の町屋でも通
り庭とか土間とか、あるいは店の間というものがございました。それからお祭りのときは、例えば美川も石崎もそうですが、格子を外します。そして前の部屋はだれでも入っていい空間になります。要するに開く空間になるわけです。そのように家を開くということがなくなったということがあります。農村の家の縁側はだれでも入れる空間、土間はだれでも入っていい空間だったかと思います。そういう意味でいうと、今、世界中に少しずつ出ているのは、例えば集合住宅でいうとマンションを想像していただければわかるのですが、今は裏口から入っている。そして鉄の扉で閉まっている。そうではなくて、ベランダの方から入る。要するにリビングアクセスという言い方をしているのですが、リビングアクセスをしようではないか。それから同潤会アパートというのが東京にございますが、あれは共同住宅なのです。食堂を皆で持っている。おふろは皆で持っている。図書室もある。応接室もある。そういう空間です。要するに集合住宅の中にあるのは、個室というものと共同で皆で使おうという部分です。要するに生活を開くということがあります。そういう交流するという空間を、学生たちも含めてどんどん提案しております。
たぶんそれが、都心の楽しさ、人が集まる楽しさ、交わる楽しさみたいなものを作っていく。今までとは違って、人と交わりたくないというのとは違ってきた。それができないかぎり、都心居住というのはありえないではないかと思っております。
そのことによって逆に、安全、安心の町づくり。最近、いろいろ日本のコミュニティもほころびを始めていますが、そのほころびを直すための仕掛けでもありましょうし、少子・高齢化社会というときに、どうやって皆死ぬ
まで生きていくのだ。その町で死にたいではないかというようなことを考えますと、もう少しコミュニティがしっかりしないと高齢化社会ものりきれないのではない。あるいは、地球環境へのエコシティを作ろうという運動もコミュニティなくしては考えられない。阪神大震災もまさにそれを証明したかと思います。そういう意味で、少し開かれた住居を持つ都心居住を作ろうという、そういう課題が大変回答として多いのです。
そういうことを少し考えながら、今日の分科会で、そこの2つの仮定的な条件を私は少しでも検証したいと思っております。
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